WC学園  レイフの一日

















多分、こんな感じ
























東の空が明るみ出し、新しい一日のはじまりを告げる。

WC学園の寮に住む生徒たちは陽の光やスズメの鳴き声に次々と目覚め、いそいそと登校の準備をはじめる。三十分もすると学園に向かう者も現れ始め、挨拶を交わす声も聞こえてくる。

しかし、寮では未だにカーテンで閉じられた窓が一つだけある。

WC学園の生徒“レイフ”の朝は、常に波乱のはじまり方である。









【*******】









陽はすっかり昇り、時刻は午前八時三十分になろうとしている。

レイフは未だ、夢の中にいた。

ベッドで頭まで布団を被り、カーテンの隙間から差し込む陽の光を背にすうすうと寝息を立てている。まるで、朝の訪れに気づいていないよう。

整理整頓の行き届いた室内には、何故か五個の目覚まし時計が中央に風穴を開けられた状態の残骸となって床に転がっている。

壁にはハンガーにかけられた、皺一つない制服。前日も着込んだからかなり皺になっているはずなのに、ワイシャツにもブレザーにもスラックスにも見当たらない。

さらに、トースターには食パンが二枚入れられていて、あと一分で焼き上がるという具合になっている。

傍から見ると「一度起きて再び寝たのでは」と思うが、パンが焼き上がる数分の間でここまで爆睡するとは思えない。

HRの開始時刻は八時四十五分。それを過ぎれば問答無用で遅刻扱いになり、廊下に立たされたり課題を出されたりと、相応の仕打ちを受けることになる。

と、トースターからこんがりと焼かれたパンが飛び出し、ベルが鳴る。

それで目が覚めたのか、むくりと彼が起き上がる。

「ん、うー……」

気持ちよさそうな顔で伸びをして、軽く首を振る。毛先が青みを帯びたセミロングの銀髪は、しなやかなのに寝癖一つない。実に不思議だが、手入れは必要なさそうだ。

カーテンと窓を開けながらI−ブレインのメディカルチェックを行い、脳内時計で現在時刻を確認する。

(―――午前八時三十三分)











「―――久々に早起きしたなぁ」













「どこがだぁっ!?」とすかさず突っ込みが飛んできそうなボケ発言をするレイフ。だが、現在時刻は承知したはずなのに焦る様子が全くない。まだ寝ぼけているのだろうか。

それからというもの、レイフは洗面台で顔を洗い、歯磨きをし、制服に着替え、少し冷めたパンにバターを塗って一枚目を食べる。そして戸締りをして、ようやく登校できるようになる。

しかし、この時点で時刻は八時四十分。学園はすぐ目の前とはいえ、全力疾走で向かっても教室までにはタイムリミットである。騎士の自己領域とかなら問題ないだろうが、騎士ではない彼の足は常人より少し速いくらい。今から普通に行っても間に合わない。

最も、「普通に」行けばだが。

ここまでの窮地に立たされて、レイフはまだのんびりとしている。

しかし、身だしなみを整えて荷物の入った鞄を取った瞬間、それまでほわほわとした表情が消えて急に凛々しくなる。

「さて、と…」

目を瞑って、一つ深呼吸。

(「時空因果律制御」起動。「Trnsfer」発動)

―――転瞬。

いつもの能力で、教室へ「飛んだ」。














【*******】















教室は活気に包まれていた。

HRが始まるまでの僅かな時間を使って、クラスメイト同士でわいわいと話している。

一人の生徒が、壁にかけられた時計を見て話題を変える。

「ねー、あの二人まだ来ないよー?」

能天気な声で周りに尋ねるのは長い黒髪の少女、リューンエイジ・FD・スペキュレイティブ。長い名前なので皆からはリューネと呼ばれている。

「え?……ああ、あいつらか」

彼女の言葉を受けて鞄のない机を二つ見つける黒髪の少年、緋影。由来は不明だが、たまにきらーん君と呼ばれている。

「まだ来ないんですか?二人とものんびり屋ですね」

あはは、と笑いながら嬉しくもない評価をするのはウィステス。性格に並々ならぬ表裏があるとか。

「でも、そろそろ来ないとやばいよー?」

自分の机に腰掛けて、まだ来ていないという二人を案じるリューネ。

「まだ二人とも遅刻したことないけど、いっつもギリギリセーフだもんね。この上、初めての遅刻が二人同時だったら面白いのになー」

「あ、それだったら二人して仲良く課題やるかも」

「で、二人して仲良く眠りこけて間に合わない、と」

あはは、と他人の不幸を勝手に想像して笑い合う三人。完全に他人事と思っているなこいつら。

「あと五分か……本当に遅れてきたりしてー」

「―――誰が?」

「誰がって、決まってるじゃない。レイフと……」

ぴたりと動きを止めるリューネ。緋影もウィステスもぴたりと止まる。

三人は声のした方向にゆっくりと振り向く。

そこには。

「どうしたの?」

一枚目のパンを食べ終えて、パックの牛乳をストローで飲んでいるレイフがいた。







「うおぅっ!!?」








いかにも「今気づきました」というリアクションで腰を浮かす三人。リューネはバランスを崩して机ごと転倒。どんがらがっしゃん、と凄くいい音がした。

「お、お前……いつからいた?」

代表して緋影が問う。

「リューネが『あの二人まだ来ないよー?』って言った時から」

「最初からいたんですか!?」

頷きながら二枚目のパンを食べ始めるレイフ。しかし、三人の顔を不思議そうに眺めて一言。

「あれ?気づかなかった?」

「え、ええ、まったく」

口元を引きつらせながら答えるウィステス。

「いったぁ〜…」

腰を擦りながら立ち上がろうとするリューネ。よく見ると頭にたんこぶもできている。

「あ、大丈夫?」

(重力操作開始)

I−ブレインにコマンドを送り、操作の対象となる質量にかかる重力を緩和させるレイフ。指の動きに合わせて対象が浮かび、安定した姿勢に戻して再び下ろす。

―――机を。

「私じゃないのっ!?」

「え?机は自分じゃ起き上がれないでしょ」

……………………。

……………。

……。

「……ところで」

異様に沈黙した空気を変えようと、強引に話題を変えるリューネ。今度は椅子に座りながら。

「もう一人が来ないね」

「あと四分ですよ?そろそろマズいんじゃないですか?」

「ああ。流石にな」

「緋影、もう一人って?」

「ほら、アイツだよ……あ」

すると緋影は不敵な笑みを浮かべてレイフに近づき、ぼそぼそと耳打ちする。

今の緋影の表情は、何か悪戯を思いついた時のそれだ。

「……な。頼めないか?」

「……まあ、いいけど。ところで、皆は起こさなかったの?」

「リューネは、寮を出る時に起こしに行ったんでしたよね?」

「うん。でも、大声出しても起きなかったの」

ウィステスの問いに簡潔に答えるリューネ。それを見た緋影は頷いて、レイフの肩を叩いて囁く。

「というわけだ。今ここからあいつを起こせるのはお前だけだ」

「わかったよ」

頷くレイフ。

「じゃあ、これ使って」

リューネは虚空から、ある物を取り出してレイフに差し出す。彼女が支配下に置いている虚空には他にも3メートル級のハリセンが仕舞われているとか。

「ありがとう」

にっこりと微笑んで“それ”を受け取ったレイフは立ち上がり、窓を開けてちょっと咳払い。そして深呼吸。

リューネたち三人は、彼の背姿を見て必死に笑いを堪えていた。









【*******】









彼女は、夢を見ていた。

子供が絵に描いたようなファンタジー世界にいて、周りにはショートケーキやモンブランといったスイーツが彼女の身長を大きく上回るサイズで鎮座している。

「あぁもー」

見渡す限りスイーツの山。そんな光景をうっとりとした表情で眺めながら品定めをする。

「どれにしよーかなー」

この世界がどうとか、そういうことに関しては何の疑念も持っていないらしく、最早目に見えるスイーツにしか頭にない状態だ。

「……あ!チョコレートケーキ見っけ!」

目を凝らしていると、彼女の大好物なチョコレートケーキが見つかり、他の物には目もくれずにスイーツの森―――作者は「墓場」を連想したが―――を掻き分けながら進む。

すぐに彼女はチョコレートケーキにかぶりつく。ちなみに、このケーキだけ何故かカットされていない、いわゆるホールの状態だった。

……太るぞ、という突っ込みは、ここでは誰も入れられない。

「ひあわへー」

口いっぱいに頬張る彼女は、今にもハートマークが乱舞しそうなくらい幸せそう。

その時、空から声が聞こえてきた。





「早くしないと遅刻するよー」





「ふぇ?遅刻…………って、ええっ!?」

がばっと勢いよく起き上がる。それから少しして、やっと自分が夢を見ていたことに気がつく。

「え……じゃ、じゃあ……さっきおっきなチョコレートケーキ食べてたのって……夢?」

ピンポーン。(←効果音)

「なぁんだ、ざんねーん……って、そ、そうだ学校!!」

窓の外の光景を見て遅刻寸前という事実を理解した彼女は大慌てで仕度する。

顔を五秒で洗い、歯磨きを一分で済ませ、髪を整えてパジャマから制服に着替える途中、夢の中で聞いたのと同じ声が聞こえてきた。





「あと三分だよー、急いで胸のない人―」






「うっさいわね!今こうして仕度してんでしょーが!」

おそらくは拡声器を使った声に悪態をつきながら、制服のスカートを履く。

……不意に、彼女の動きが止まった。









「……いま、何つった?」










彼女の問いに答えるように、三度声が届く。









「授業始まるよー胸のない人ー」




「始まるよー胸のない人ー」(←エコー)




「胸のない人―」(←エコー)



「ない人―」(←エコー)



…………………………。

…………………。

…………。

…。









「あ……」













「あったまきたッ!!シメるッ!!」












気にしていることをあっけらかんと言ってくれたであろう人物に対して怒り爆発。背景では富士山だかベスビオ火山だかエトナ火山だかよく分からない火山が大噴火している。

怒りのボルテージが鰻上り。そして着替えの速さも鰻上り。

音速で着替えた彼女は勉強机の上にあったナイフを掴み、「今殺しに行きます」的なオーラを発しながら玄関を蹴り破る。両手とナイフは既に煌煌と輝く炎に包まれている。



寮に残っていた最後の一人“ノーテュエル・クライアント”(Red版)、いざ出陣。







【*******】







「まーた始まった……」

別の教室でHRが始まるのを待っていた笠置は、窓の外からの大音量に顔をしかめていた。

「相変わらず、レイフ殿の起こし方は最低ね。人の気にしていることをこうもベラベラと……」

女性として許し難いと非難するのはフェアードネイル・アインツオブゼクス。皆からはフェアと称され、風紀委員を務めている。

「なるほど……彼女もまた不幸なのだな」

うんうんとどこか納得しているのはイクス・エミリオ・ド・エクセリオン。彼に「お前も不幸だろうが」という突っ込みは厳禁だ。

「イクス、それ違うから」

彼の台詞に突っ込みを入れるのはフェリン。学園では貴重な突っ込み要員である。

「ま、まあ、これで今日も遅刻者ゼロですね。代わりに校舎に被害が出そうですけど……」

控えめに述べるのは高月。生徒会長を務める、この学園に通う生徒たちのトップだ。

「レイフが学園の外にノーテュエルをおびき出してくれることを祈るだけだな」

「……そうだな。でなければ、この学び舎が炎と光線の嵐に飲み込まれる」

「ところで、鶏島さんは?」

「「「「言うまでもない」」」」

「そ、そうですか……」

こちらは至って平穏だった。







【*******】







「ッあ゛〜。朝っぱらからうるせぇなぁあのヤロー」

用務員室で不満げに呟いているのは、ご存知我らが狂人ベルセルク・MC・ウィズダム。することがないので二度寝をしていたら外からの大音量に起こされたのであります、はい。

「……まあ、マイシスターに手を出さなけりゃいっか」

起きてもやっぱりすることがないので寝ましたとさ。







【*******】







「どうして僕が起こすと襲ってくるの?」

「うるさーい!今日という今日は許さない!燃やしてやるーっ!」

案の定、二十秒で教室に来るや否やノーテュエルは問答無用でレイフに攻撃開始。

勿論レイフとしても(訳も分からずに)やられるわけにもいかないので、とりあえず校舎に被害を出したくないので窓から外に飛び出して戦闘開始。

リューネたち三人は眼下で繰り広げられる戦闘の様子を俯瞰する。

ナイフを握り締めて光速度の九十五パーセントという速さで接近するノーテュエルを、専用デバイスで斬撃と進路の両方を歪曲した空間を使って回避するレイフ。

その隙を突いて反撃に転じるレイフはデバイスを自分の周囲に引き戻して荷電粒子砲を発射。僅かな時間差を置いて交互に撃ち出される光の槍を、迂回するように疾走して紙一重でかわし続けるノーテュエルは炎の弾丸を形成して反撃。

戦況は一進一退。

リューネたちは流れ弾に注意しながらただ見守るだけ。

「うわー。すっごい戦いぶりだねぇ二人とも」

「純粋な戦闘能力も火力も互角か。普通に戦ってても決着はつかないんじゃないのか?」

「まあ武力行使なんて珍しいですけどね。あ、二人とも行っちゃった」

呑気に解説する三人の視界から消える二人。

―――あれ?向こうって確か……。

フェリンは一人、微かな違和感を覚えた。







【*******】







同時刻。

「またセクハラな起こし方するなぁ、レイフの奴」

HR前にも関わらず、のんびりと校庭を歩くのは鶏島。何か誤解を与えそうなので、ここで彼の特徴を言うのはやめておく。

「まあどうでもいいか。聖なる保健室に、麗しきリリーさんが俺を待っているー♪」

……人のこと言えんのかオマエ。

他人に見つからないようダイバーで移動し、保健室へと向かう鶏。

少しして、保健室の近くにある茂みまでやってくる。ここまでは誰にも見つかっていない。

「ふ、ふ……ふふふふふ」

不適かつ不気味かつ似合わない笑いをこぼす鶏。

「リリーさ〜んっ♪」

負傷者を装い保健室へとひた走る鶏。どう見ても元気いっぱいの声だし、走る格好がグリコっぽいのでさらにバカっぽい。

「怪我してるんです〜、助け」

助けてください、と言おうとした刹那。









燃え尽きて崩壊ヴァーナ・ディース!!』


夜空に舞う蒼き光ナイツ・オン・ライツ!!』










「うぎゃああああああああ……」










ズッドオオォォォォォォン……。









……どこからか飛んできた二人の究極奥技をまともに食らって、鶏は巻き起こったキノコ雲の中に掻き消えた。







【*******】







その後、教室に戻ったレイフとノーテュエルはHRに出席していなかったとして仲良く課題を提出される羽目となった。もっとも、登校自体は間に合っていたために量は少なめだったが。

放課後になって、仲良く二人で課題を攻略してる時の会話では。

「どうして最後の一撃を僕じゃなくてあいつに?僕はリリーさんが迷惑そうだから撃ったけど」

「あんたよりあいつの方が理不尽だからよ。それに、起こしてくれたことには一応感謝してるから」

「ありがと」

確信犯どもめ。







ちなみに鶏は瀕死の重傷を負ったが、立派な患者なので保険医から手厚く手当てと介護の両方を受けてもらえることになった。

ただし。

「あだだだだっ!そこは触んなっつってんだろ!聞いてんのかおいコラあぎゃああああああっ!」

この日の担当はリリーではなく、姫乃とゴリだった。









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後書き



えーっと、とりあえず……。



色々捏造してゴメンナサイ。



本当はこれが初めて書いた作品なんですが、こんなものじゃ嬉しさよりも恥ずかしさと情けなさの方が込み上げてきます。

まだ不確定の情報や設定を勝手に書いたりクラスメイトとか勝手に決めたりするし、ノーテュエルや鶏島の扱い酷いし。

何より、終わり方が唐突すぎだし。

おまけに、もっと情報があったら教師陣とか書こうとしてたし。



あと、採用かどうか未定だけど初のお披露目となったレイフの固有技についても少し説明しておきますね。



「夜空に舞う蒼き光(ナイツ・オン・ライツ)」……WC学園仕様レイフの最終奥技。「Excaliburnus」全8基を周囲に展開し、荷電粒子砲を最大出力で一斉に撃ち出す大技。これがいわゆる「ハイマット・フルバースト」。荷電粒子砲一本の太さは15センチ。